追悼 小室直樹博士

小室直樹著『大東亜戦争ここに甦る』

先週末から小室直樹先生の本を読み返している。
目下、読み返しているのが、『大東亜戦争ここに甦る』だ。

先生がこの本で強調しているのは、日本が大東亜戦争で負けたのは、物量や技術の差ではなく、腐朽官僚制のまま戦争に突入したことに原因がある、ということだ。

そして、日本が腐朽官僚制を脱却し、緒戦の圧勝を活用して冷静な作戦計画を断行していれば、大東亜戦争に勝てた、ということが書かれている。そもそも日本に達識の指導者がいれば、日本は大東亜戦争を戦わずに済んだ、とも分析している。

何よりも、大日本帝国を滅ぼした腐朽官僚制が、現在の日本を再び滅ぼそうとしている、ということを喝破している。

1941年当時、アメリカは、ドイツがイギリスとソ連を征服することを阻止すべく、イギリスとソ連に対して出来得る限りの援助をしていた。もしドイツがイギリスとソ連を征服したら、ドイツはアメリカに拮抗し得る大国になる。そうなる前にドイツを潰さなければ、アメリカが危ない、と いうのがルーズベルトの判断であった。

そのため、ルーズベルトは、有名な「海賊に与える書」という声明を出し、ドイツ潜水艦への攻撃を命令します。中立国としてあり得ない、公然たる干渉だ。

しかしドイツのヒトラーはアメリカのルーズベルトの意図を読み切っていた。ルーズベルトは、「絶対に戦争はしない」と公約して三選された大統領であり、自ら進んでは戦争が出来ない。だから、ドイツが反撃しない限り、アメリカが対独開戦には至らないことを理解しており、アメリカの度重なる挑発に乗ることはなかった。英ソに対して二正面作戦を展開しているドイツには、とてもアメリカと戦う力ははい、と判断していたわけだ。

そのため、ルーズベルトは、ドイツと軍事同盟を結んでいた日本を挑発し、戦争に引きずり込めば、必然的に対独戦争が出来る、と読んで、日本への圧力を高めた。

しかし、海軍次官を務めた経験のあるルーズベルトは、日本海軍の実力を良く知っていたため、ドイツに対するような露骨な挑発は日本に仕掛けてこなかった。

ドイツに対しては、駆逐艦でドイツUボートを撃沈せよ、と命令しておきながら、日本に対しては軍事圧力をかけず、資産凍結や石油の輸出ストップなどで対日圧力を強めていったことが、何よりの証拠だ。

ドイツと戦争がしたくて日本を挑発してみるものの、日本の海軍が怖い。ルーズベルト政策が抱える先鋭なる矛盾である。

このような情勢は、達識の指導者ならば、簡単に理解し得たものだ。少なくとも、「日本と違い、アメリカの政治家は公約を守らなければならない」 ということさえ日本の指導者が理解していれば、「アメリカは、自ら進んでは、絶対に戦争が出来ない」ということを理解していたはずだ。

真珠湾奇襲の最後の引き金となったのは、いわゆるハルノートだが、冷静に読めば、ハルノートはむしろアメリカに日本と戦争をする意図はなかったことを証明する文書だ。

ハルノートには、日本に対する要求事項が実施されるべき期間が書かれていない。「いつまでにこれをせよ」という期間の明示がなければ、それは実効性がない。このことだけ見ても、アメリカの対日圧力は、実は本気ではなかったことが明白だ。

即ち、ハルノートが出された時に、その条件である北支からの撤兵に対して、「撤兵します、撤兵します」と言うだけ言っておいて、ズルズルと引きずり伸ばすことが可能だった、ということだ。つまり、本気でアメリカは日本を脅していなかった、ということだ。
極秘文書でも何でもない、公然たる外交文書に書かれている正確な意味を、当事者である日本人が、当時はおろか、戦後65年経っても全く理解していない。日本人の平和ボケ、外交ボケは、まさに病膏肓に入るとしかいいようがない。

それはともかく、1941年当時の日本のベストな戦略は、石油が止められた瞬間に、ABCD包囲陣のうち、Dに当たる、オランダとだけ開戦し、オランダ領インドシナを実力で確保し、石油を獲得する、という戦略だ。そうなれば、ルーズベルトはいきり立ち、即時対日開戦を主張したことであろう。

しかし、当時、戦争反対が絶対の世論であったアメリカでは、「外国(オランダ)の植民地を守るために、なぜアメリカ青年が血を流さなければな らないのか」という声が澎湃として巻き起こり、対日戦争は起きなかったことであろう。

もしこのことに気付かずに、真珠湾奇襲を行った場合、つまり実際の歴史の通りに戦争が起きた場合でも、「アメリカの狙いはドイツである」ということさえ理解していれば、日本は戦争に勝つことが出来た。

当時、ドイツは、軍を3つに分け、ソ連を3ヵ所から攻略していた。本来ならば、モスクワ攻略に全力を集中すべきところであったが、石油を獲得するために、どうしても南方石油資源地帯の攻略に力を割かざるを得なかった訳だ。

また、ドイツとイギリスは、アフリカで死闘を繰り広げていた。インドの市場と中東の石油が、島帝国である大英帝国の生命線であり、チャーチルは、インドと中東を守るために、イギリス・アフリカ軍団を、ドイツのロンメル率いるアフリカ軍団と戦わせていた。
砂漠の戦いは補給の戦いだ。イギリスは、地中海をドイツに抑えられていたために、何と、喜望峰を経由して、英アフリカ軍団に補給を継続していた。大英帝国の面目躍如、だ。

ところがそこに現れたのが、真珠湾攻撃とマレー沖海戦で米太平洋艦隊と英東洋艦隊を撃滅した日本海軍だ。

ヒトラーは、日本に対して、イギリス第二次東洋艦隊も撃滅して、インド洋を制海して欲しい、と打診している。山口多聞海軍少将も、イギリス第二次東洋艦隊を撃滅し、マダガスカル島に陸軍を配置して、イギリスのアフリカ補給路を断て、と意見具申している。

そうすれば、アフリカのイギリス軍はドイツに敗れ、イギリスに中東の石油が入らなくなり、イギリスは戦争継続能力を失うことになる。ドイツは、イギリス海軍が動けなくなり、かつ中東の石油を確保できれば、モスクワ攻略に全力を集中し、必ずやソ連を征服していたことであろう。

ソ連を征服したドイツは、次はイギリスの征服に動き出す。そうなる前に、石油を止められて身動きがとれないイギリスは、何としてでもドイツと講和をせざるを得なくなる。そうなれば、アメリカは対日戦争どころではなくなり、対独戦争の準備に全力を集中せざるを得なくなる。この時こそ、日本は、どんな条件ででも、アメリカと講和をすべき時、ということになる。

日本がアメリカに勝つには、ドイツがイギリスに勝たなければならない。そのためにはインド洋を制海し、中東の石油を日独が確保すればよい。

このことを、日本の指導者が理解していれば、日本は、大東亜戦争に勝てた、ということだ。いや、実際には、ヒトラーと山口多聞が、日本が勝つための戦略を具体的に提示していたのだから、山口多聞を連合艦隊司令長官に任命していれば、日本は戦争に勝てた、ということだ。

山口多聞は歴とした海軍キャリアであり、機動部隊の生みの親の一人でもある。

山口多聞は将来の連合艦隊司令長官として、海軍部内の期待を一身に背負っていた。しかし、卒業年次が山本五十六よりも8年遅いため、山口が山本の地位に付くまでは8年かかることになる。この「年功序列」が日本の敗因となりった。

たかだかお勉強に過ぎない海軍兵学校の卒業年次と成績が、実戦の指揮系統をも決定する、というベラボー、無茶苦茶が日本敗戦の原因となりった。このことを、今こそ日本人は思い出さなければならない。

それに対してアメリのルーズベルトは、当時、海軍少将に過ぎなかったチェスター・ニミッツを、28人抜きの大抜擢人事で少将から中将を素っ飛ばして大将に昇進させ、太平洋艦隊司令長官に任命した。このルーズベルトの決断が、アメリカの未来を切り拓くことになった。

学校の成績や卒業順位は、実戦の能力とは無関係だ。特に軍人は、不確実な未来に対して決断を行い得る、戦略眼と決断力を併せ持つ人物でなければならず、しかも生命を的にして戦うため、「鉄砲玉が避けて通るような」幸運の持ち主でなければならない。つまり、政治家同様、学校教育では育成出来ないのが軍人という存在だ。

このことは、明治時代の日本ではよく理解されていた。日露戦争の開戦前、舞鶴鎮守府司令長官という閑職にあった東郷平八郎を連合艦隊司令長官に抜擢した山本権兵衛は、明治天皇にその理由を聞かれ、「東郷は運のよい男でございますから」と答え、明治天皇も了解された、という有名な話がある。

また、陸軍も、大山巌元帥以下、第1軍の黒木大将、第2軍の奥大将、第3軍の乃木大将、第4軍の野津大将と、いずれも軍司令官クラスは幕末の騒乱の頃から戦争に次ぐ戦争で生き残って来た強運の持主が任命されていた。

戦争は、国運を賭けた戦いであり、より運の強い方がよりミスが少なくなり、結果として勝つ。このことを明治の軍人はよく理解していた。

そのことが全く分からなくなり、学校教育の成績と卒業年次が軍人の能力である、と勘違いしたのが昭和の軍人だ。

この、昭和の軍人が犯した誤りを、戦後の経済官僚は、そっくりそのまま引き継いでいる。そしてそれが、戦後の経済戦争の敗戦をもたらした。

日清、日露の両戦役で大日本帝国の興隆を担った軍事官僚が、大東亜戦争の敗戦により、結果として国を滅ぼした状況と、戦後の経済成長を担った経済官僚が、バブルの処理に失敗し、バブル崩壊後の金融戦争でもアメリカに敗れ、結果として経済大国日本を滅ぼそうとしている状況は、そっくりだ。

その共通する原因は腐朽官僚制にあり、実力とは無関係な秩序形成が、官僚機能を阻害していることが問題だ。このことは、経済官僚だけではなく、外務官僚など他の官僚にも当てはまる。

何はともあれ、是非『大東亜戦争ここに甦る』をご一読ください。
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by matsuo_yuji | 2010-09-18 20:16

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